恋人⇆セフレ
第11章 空白
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「あ、きたきた。藤!ここここ!!」
人混みを掻き分けながら走っていると、飛び跳ねている男を見つけて走り寄った。
普段から走り込んでいるとはいえ、上がる息は免れなくて、呼吸を整えながら東の肩を掴む。
「はぁ、はぁ、どこらへんで、見かけたの…っ?」
「来て早々かよ!でも、見かけたって言ってももう30分近く前だぞ?」
「それでもいいから…っ」
細くて切れそうな糸でも、志乃さんに辿り着けるのなら、それに縋り付きたい。
必死に目で訴えると、東は大袈裟にため息を吐いて俺の肩を叩いた。
「駅ん中入ってったよ。もしかしたらまだ駅中に居るかもしんねえけど…なんかでけえ荷物持ってたし、どっか行くのかも」
「分かった、ありがとう」
でかい荷物…。ということは、特急か新幹線か?
それならあまり時間はないし、もしかしたらもういない可能性が高い。
まだ乗る電車が来ていないことを祈りながら、俺は息を落ち着かせる間なく足を駅の入り口に向け走った。
もし乗車口に行ってしまってたら、絶対に見つけることはできない。けれど、これを逃してしまったら、もう二度と志乃さんに会えない気がする。
ーーーーーーと、その可能性が頭をよぎり、ゾッとした感覚が全身を襲った瞬間、俺の足はピタリと止まっていた。
それは、思いの外早く見つかったのだ。
「ーーーーえ?」
間抜けな声で独りごち、汗を拭うのも忘れてその光景に見入る。