恋人⇆セフレ
第11章 空白
目を点にする俺をよそに、ウエイターに注文をする里君。
全く想像していなかった返答だった。けど、その事実と恩人というワードがうまく当てはまらなくて、さらに混乱する。
俺が無理やり奪おうとせず、真木さんと志乃さんがよりを戻せたことで、真木さんが幸せになったから…??
「何、そんなジロジロ見て。超失礼」
「あ、すみません」
「ふん」
ーーーーー申し訳ないけど、彼にそんな殊勝な心は持ちあわせていない気がする…。
しかし、気の強さは同じか。志乃さんよりもまだ幼さのある性格の彼は、少し可愛らしくもあるけれど。
すい、と視線をわずかに逸らすと、里君は小さくため息を吐いて頬杖をついた。
「昔から真木の隣には兄貴がいて、お互いしか見えてませんって空気醸し出されてさ。何度か別れてるっぽいのに、それでも離れてくんないから、諦めるしかなかったんだけど…」
でも。と里君の瞳が俺に向けられる。
そして、まんまるい目を妖艶に細めると、細長い指で俺を指差した。
「あんたのお陰で、やっと兄貴は純粋に好きな相手ができたし、真木も一人になった」
「……え?」
「落ち込んでる真木は可哀想だけど、その傷はこれから俺が治してあげればいいし。
あ、そういえば兄貴は元気?
俺から連絡ってしづらくてさ」
ゴロ…とどこか遠くで雷鳴が轟いた。
そんな中俺は、「やば、雷?」という里君の声も、珈琲を持ってきた店員の声も、どこか遠くから聞こえているような感覚に陥っていた。
ただはっきりと聞こえるのは、俺の上がっていく心拍数と、呼吸だけで。