恋人⇆セフレ
第12章 春がきて。
パタン。
分厚い本を閉じて、まだ木の香りが残るベッドに腰掛ける。
そのまま体を倒せば、無感情な新品の香りが全身を包んだ。
カーテンもまだつけていない窓からは、柔らかい春の光が差し込んでくる。新しい環境だと言うのに、なんの感情の起伏もない。
さっきまで読んでいた本は、自分がモデルだと言うこともあって、容赦無く突き刺さる言葉ばかりだった。
くそむかつく本だ。何がベストセラーだ。腹が立つくらい面白いし、色んなものが染み込んでくる。
出版して一年ちょっと。やっと心の整理がついたと思って読んだらこれだ。全く成長していなかったらしい俺は、読み進める度に自分と重ねては満身創痍になるばかりだ。
「…まあ、この本の主人公と俺との違いは、逃げなかったところだけど」
そこだけは全然違う。きっと真木も、俺にこうして欲しかったんだろうな。
一度追いかけなくて後悔したくせに、離れたくなかった”あいつ”からも俺は逃げてしまった。
一人だけ幸せになるなんてと心の中で言い訳を重ねて逃げたけれど、罪悪感に耐えられなかっただけなんだ。死ぬほど弱い奴だよ、俺は。
ふう、とため息を吐いて、のどかな空を眺める。
外からは子供の笑い声と、犬の鳴き声が聞こえてくる。
ーーー犬。
「…あいつももう大学卒業してんのか。時が経つのは早いな」