恋人⇆セフレ
第12章 春がきて。
「いらっしゃいませ」
そして徒歩数分。住宅街に紛れるようにしてひっそり佇んでいる店の扉を開くと、いつもの綺麗な男が出迎えてくれた。
植物に紛れた『ハナミヤ珈琲店』という看板は、しっかり目を凝らしていないと見逃すほどだが、心底見つけれて良かったと思える場所だ。
「今日もカフェラテで?」
「はい、お願いします」
「いつもありがとうございます。ちょっと待っててくださいね、と」
ニコニコと柔らかい笑みを浮かべる店主は、特段鍛えているように見えないのに、積み上がった段ボールを軽々と持ち上げ、カウンターから床に下ろした。
相変わらずの馬鹿力だな…。
そんなことを思っていると、「あっ」と声を出した店主。
カウンター席に座りかけていた俺は、それに釣られて「えっ?」と思わず聞き返した。
「いえ、すみません。そういえば、橘さんを探してるって方が昨日来られて。知り合いだったようなんですけど…」
「俺の知り合い、ですか?」
「そうそう。黒髪で身長が高くて、顔が整った方でしたけど」
かなり大雑把な特徴を挙げられるも、ああ。と察しがつく。明らかに真木だ。
編集長と無駄に仲の良い真木は、簡単に俺の居場所を知れるから、こっちに引っ越しているのはとうの昔に知られている。
何度かきていた連絡もスルーしていたから、良く来るとバレているここに、俺が来てないか確認でもしに来たんだろう。
俺に会いに来る暇があるなら小説を書けばいいのに。