恋人⇆セフレ
第12章 春がきて。
「泣きすぎじゃないですか?」
ガタリと隣に座った男は、優しく笑うと、俯く俺の涙を優しく指で拭ってくれた。
懐かしい温度。懐かしい匂い。もう二度と会わないと決めていたのに、会ってしまうともうダメだった。
お前の名前を呼びたくて、強くお前を抱きしめたくて堪らない。
「こっち、見てくれないんですか?」
「っ」
する。と離れた手を寂しく思い、つい追いかけかけた視線を慌てて下に落とす。
そして嫌だと顔を横に振ると、「どうして?」と柔らかな声が返ってくる。
ーーーーだって、どんな顔でお前を見ればいいんだよ。
俺はお前に、真木とヨリを戻したかのように思わせてから消えた男だ。全部全部踏みにじったのに、お前が辛かったことをなかったかのようにできるわけがない。
「…志乃さん」
久し振りに呼ばれた名前に、ぴくりと体が動く。
そんな俺の手を、ぎゅ。と大きな温もりが包む。
「実は、志乃さんがここにいることも、真木さんとヨリを戻していないことも、一年前にはもう知っていました」
ーーーーえ。