恋人⇆セフレ
第12章 春がきて。
思わずあげかけた顔を、ふ。と下げる。
どういうことだ?誰からの情報で、どういう経緯で?
聞きたい事は沢山あるのに、ある可能性が思い浮かんで、一気に呼吸が苦しくなった。
唾の飲み込み方も分からなくなって、はくはくと唇を動かすことしかできない。
ーーーーつまり、知っていたのに伊織はすぐに俺のところに来なかった。
それを指す事実は、ただ一つ。
「………嫌になっただろ。」
自分のエゴだけで消えたわがままな俺に、いい加減愛想がついてしまったからだ。
「俺はどう頑張っても皆が望む可愛い恋人なんてできない。あの時俺がいなくなって、お前は良かったと思うぞ」
どんどん俯いていく顔。震えそうになる手をどうにか抑えて、膝の上で強く握る。
また涙が込み上がってきそうだ。
意味がわからない。なんで俺が泣くんだ。泣いていい資格なんてないだろ。
「そ、そうだ。いい人は見つかったのか?お前のことだから、好きだなんだと寄って来る奴は沢山いただろ…?俺と違って素直で尽くしてくれる奴がお前にはーーーーーー…」
と、言いたくも聞きたくもなかった言葉は飲み込まれた。
「志乃さん」
ーーーー強く握りすぎて色が変わった俺の手に、優しく伊織の手が重ねられたからだ。