恋人⇆セフレ
第12章 春がきて。
「な、なんでそうなるんだよ…?」
想像もしてなかった返答に、素のまま呟いてしまう。
しかし、俺が猫かぶってることすら気づいていたのか、ハナミヤさんはさほど驚かずに笑みを深めてとんでもない爆弾を落とした。
「つまりはこういうことでしょう?
大好きな相手に嫌われたくない。大好きだから、自分を好いてくれていた綺麗な思い出をなくしたくない。
橘さんはそう言っているように聞こえましたから」
「ーーーーーー…」
もう、真っ赤になるしかなかった。
ーー言葉は恐ろしい。捻りに捻って絡まってしまった言葉の紐を解いてしまえば、本音は丸見えなのだ。
自分自身、そんな絡まった言葉に埋れてきていたから、言葉の真意に全く気づかなかった。
俺はずっと、そう思っていたのか。
「あぁでも、嫌われたくないから離れる。それが橘さんの幸せなら良いと思いますよ」
「…………やっぱり、あんたもなかなかいい性格してるよな」
はて、ととぼけるようにしてシルバーを拭くマスター。
いつもなら舌打ちものだが、こうもばっさり言い当てられてしまっては、なんだか自分の間抜けさがおかしくて自然と口角が上がる。
「欲しいものは欲しいって言う、か」
「頑張ってくださいね」
本当にそう思ってるのか定かではないが、今回はマスターにお礼を言わないといけない。
また、逃げるところだった。
本当は自分の弱さで選択したことなのに、俺はあの小説の主人公のように追いかけられないと諦めるばかりで、何もしてこなかった。
アイツはいつだって俺にぶつかってきてくれたのに。