恋人⇆セフレ
第3章 素直に。
「いらっしゃい、志乃」
「…」
チャイムを鳴らせば、懐かしい無表情の顔が俺を迎えた。
玄関で連絡をした時も然程動揺しなかったのを見ると、もう既に俺のことは聞いていたらしい。
「上がりなよ」
「…ありがとうございます」
扉を押さえて、俺を迎えてくれる真木に、グッと胸が押し潰されそうになる。変わらない。匂いも、俺に対する態度も。なんだよ、なんでそんな平然としてられる。
ここにこなくなって1ヶ月も経っていないのに、俺は酷く懐かしく感じるっていうのに。
「そこ座ってて。珈琲は?飲むか?」
「お構いなく」
「遠慮するな」
ふ、と小さく笑った真木が、いらないと言ったのに棚から珈琲を取り出す。
あぁもう。不貞腐れた俺の対応もしっかり分かってて、腹が立つ。
「…あと、それも。買ってきてくれたんだろ?駅前のシュークリーム」
「っこれは、持たされたんだ。俺が買ったんじゃない」
「いいよ、ありがとう」
優しい手が俺の頭を撫でて、鞄の隣に置いていたシュークリームを取って行く。
お前が好きなものをわざわざ買ってくるなんて、なにやってんだよ、俺。
「くそ…」
全く反省していないのは俺だ。愛想を尽かされた理由はわかってるくせに、また素直になれなかった。
またーーーー…
自己嫌悪で真木の後ろ姿から目を逸らした瞬間、ふと目に入ったものに俺はピタリと固まった。