恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
「……あ、あの。もう大丈夫なので、離してくれませんか」
よろめいた俺を、背中ごと抱きとめた背の高い男。
離すどころか何故か引き寄せられ、まじまじと顔を見られる。
な、なんなんだこの気持ち悪い男は。
だが、一見真面目そうな癖に、俺を見るこの目には見覚えがある。
「その反応、ただ知らずに入り込んだ人ですか?」
「…っ、」
「誰かをずっと探してる様子で最近ここら辺に居ましたし、今日は"そういう場"にいるので、てっきりそうなのかと思ったのですが」
あぁ。やっぱり。
男が浮かべる目は、情欲が入り混じった獣じみた目だ。昔、悔しさと悲しさで魔がさして、この目に晒された瞬間嫌悪感しかなかったことを体が思い出す。
つーかこの男、ずっと俺を狙ってやがったのか…?
「すごい、近くで見ると本当に綺麗な顔ですね」
「知らねえ。離せ」
こんなやつに猫被る必要はないと力任せに胸を押すも、見た目以上に力があるのかびくりともしない。
は?まじかよ。
少し、焦りを感じ始める。
どんどん雪の勢いが強くなって、寒さで全身が震える。
「白い肌に薄づいた唇がとても雪に合いますね。寒いでしょう?近くの店で飲みませんか?」
「いい、帰る。離せ」
「でしたら僕の家に来ますか?お風呂もありますし、温かいご飯もありますよ」
なんでこういう奴らはどいつもこいつも話を聞かねーんだ!!!
焦りが本格的になって暴れるも、男はうっとりとした目で俺の全身を舐め回すように見る。
気持ち悪い。遠慮のない性的な目。