恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
ポカン、として男の小さな背中を見送る。
は、いや待て待て。
「お前が言うなクソ男がーーー!!!!!!!!」
そう叫ぶと体をびくつかせた男はズテッと転んで、這うようにして暗闇に消えた。
変態クソ野郎が、二度と顔見せるなよ。
そう心の中で悪態をつきながら怒りを鎮めているところで、後ろからもものすごい怒りのオーラを感じた俺は、ピシリと固まった。
ーーこれはーーー…、ハナミヤ珈琲店で感じた怒りの数億倍だ。雪も降って寒いというのに、背後からの威圧にじわりと体に汗が滲んだ。
「た、助かったよ。ぐ、偶然通ったのか?」
肩にも頭にも積もっているであろう雪を払うフリをして、そっと離れる。
あんなに強く掴まれていたのに、意外にも呆気なく離された体に、こんな状況でも寂しくなる。
どうしよう。伊織だ、またいおりが、助けてくれた。
1週間以上探して、やっと会えた。
と、それなのに嬉しくて、もう感情がぐしゃぐしゃだ。
「………?伊織?」
だが、待っても返ってこない返事に不思議に思い、恐る恐る振り返ったその瞬間。
「あっンンッ!」
伊織の表情を見るより先に、呼吸ごと奪うような、噛み付くようなキスをされた。