恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
なんで。
そう思う思考とは裏腹に、俺の手は自然と伊織の広い背中を掴むように抱きついていて。
「ん、ぅっ」
迎え入れるように唇を開くと、すかさず伊織の厚い舌が口内に入り込んできた。
持って、いかれる。全部全部、奪われてしまいそうなキス。こんな伊織のキスは知らない。
「あっふ…ッいおりっ」
「ん、」
上顎を肉厚な舌が掠めるたび、体がびくつく。
顔の角度を変えて、もっと、もっとと言わんばかりに深く口内を貪られて、恐る恐る舌で応えれば、喜ぶようにきつく絡めとられる。
すり、と鼻先がぶつかりながらも、貪りあうことはやめない。
「ーーーは、」
でももうだめだ、さすがに、死ぬ。
「んんんっ」
苦しくなって離れようとするけど、腰に回った腕がそれを許してくれない。
「いお、りっくるし、」
苦しさで涙目になりながらそう訴えると、ガリッと唇を噛まれた。
「っ」
じわり。甘い唾液の味に混ざって、鉄の味が広がる。繰り返されたキスのせいで痺れた唇に甘い痛みが走り、ボロリと涙が落ちた。
それをみた伊織が、はっとしたように顔を離す。
伊織の唇は俺の血が唾液と混ざって鈍く光っていて、それを舌で舐めとった伊織は酷く淫靡でゾクゾクする。
それと同時に、羞恥と興奮でまた涙がボロリと落ちた。
「…んで、」
「え…?」
ふと、伊織が零した言葉。聞き取れなくて聞き返せば、伊織は苦しそうに俺の目を見て、まだ腕が回されたままだった腰を強く引き寄せた。
乱れた呼吸と、雪で濡れる髪。その瞳は熱と困惑で揺れていて、酷く寂しげに見える。