恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
ーーーーーーーなら。
もう失ってしまって、どうしようもないなら。
全部全部、どうにでもなればいい。
「伊織!!!!」
車の音や街の賑やかな音をかき消すほど大きな声で伊織の名前を呼ぶ。
もう知らねえ。お前の俺の最後の記憶が汚い顔だって、掠れた馬鹿でかい声だって構わない。
あぁ、そういえば面白い男が居たなって思い出してくれればいい。
「好きだ!!!!!」
涙でぐしゃぐしゃの顔で、みっともなく告白する馬鹿な男だったなってな。
どこかに行ってしまいそうだった伊織は、ハッと体ごと俺に向けた。
涙と雪でどんな顔をしているのか分からないけど、驚いているのは何となくわかった。
「っす、きだっ」
今度は真正面から、ボロボロと大粒の涙を流し、言葉をつまらせながらも、もう一度好きだと言う。
一度大声で言ってしまえばスッキリした。
何だ、こんなに簡単なことだったんだって、奥底にいる自分が晴れやかにそう言っている。
「ずっと、ほんとは、お前といたかったっ」
あの日、帰ったらすぐにお前に抱きしめて欲しかった。
同棲なんかして、帰ったらお前に「おかえり」って言って欲しかった。
バスケの試合だって、もっともっと見たかった。
また、水族館に連れて行って欲しかった。
もっともっと、お互いのしたかったことを一緒にしたかったんだ…。