恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
「俺は、お前と一緒にいる時は、いつだって幸せだった…っ」
悔しいからありがとうなんて言ってやんねーけど、今度はお前が幸せになってくれ。
そんないい奴みたいなことを思うけれど、伊織が他の奴と幸せそうに笑ってるところを想像してしまったら、ダメだった。
ぶわりと、壊れたみたいに涙がどんどん溢れてくる。
嫌だ。嫌だ嫌だ。
伊織はずっと俺と一緒にいてほしい。
他の奴のことなんか、好きにならないで。
口から出そうになった本音を無理くり飲み込んで、頭を小さく振り涙を払う。
「…今度こそさよならだ、伊織」
「ーーーーーーー…」
「じゃあな」
これ以上この場にとどまってしまったら、今度こそ真っ黒い本音をぶつけてしまいそうで、逃げるように伊織とは反対方向に踵を返した。
結局最後は逃げてしまうあたり、俺らしい。
つーか、俺はこんな風に泣くタイプじゃなかったのに、お前のせいで随分女々しくなったよ、馬鹿。
「いおり、」
最後だけだと、1人呟く。もう呼んだりしないから、この呟きを知るのは草と木だけだから。
サク。
「私だって聞いてるよ」と言うように、草を踏んだ途端雪の小気味の良い音が鳴る。
ーー明日は、雪が積もりそうだな。
サク、サク。
帰ったら目ぇあっためて、風呂入って…あ、ご飯食べねーと。そんで明日のスケジュール確認して、寝て、起きて……。
そんな、つまらない日々を、これから一人で過ごさないといけない。別に、一年前から心に決めてた人生だ。
辛くなんかない。