恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
サク、サク、サク。
あと数歩で公園を出てしまう。
あぁそうだ、伊織と最後に会えたこの空間と、今日で完全にさよならしないといけない。
だから、ここを出たらもう伊織のことは忘れる。
この一線を超えたら、ひとりだ。
サクサクサクッ!!
あと一歩で、靴を地面につけたらもう公園を出てしまう。そんな時だった。
俺のものとは違う、ものすごい勢いで地面を蹴る音がしたのは。
「…!」
そして、息が止まるほどの衝撃。
苦しいくらい体を縛る何か。
首にかかる、火傷しそうなほどの熱。
「行くなよ…!!!」
そして聞いたことのない、愛しい男の荒げた声。
「行くな…!」
抱き締められているのだと理解するのに数秒かかって、ストンとそれが落ちた時、崩れてしまいそうになった。
「やっと言ってくれたのに、さよならなんて言うな…!!」
「いお、り」
膝から崩れそうだった俺を、抵抗以上に強く掻き抱く伊織。
首にかかる吐き出すような息が酷く痛々しくて、これ以上は出ないと思っていた涙が溢れ落ちる。
「な、なんで、追いかけてきて…お、れ、すげー勇気だして、決心したのに、」
「俺から離れる決心なんて、もう二度としないで」
力強い言葉に、ひゅっと息を飲む。
でもなんでだ…?だって伊織は、あの男とーーー…。
「っ」
自分で傷をえぐってしまい、唇を噛む。
「…し、んぱいしてんなら、大丈夫だ。ここに来たのは、あの時みたいに…男を漁りに来たわけじゃねえ」