恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
そう言って腕からすり抜けようとしたのに、伊織は逃さないとでもいうように抱きしめる力を強くした。
そして、肩に熱い体温が触れた。
「ーーー、」
恐る恐る後ろに視線を向けると、伊織の癖っ毛のある柔らかい髪がそこにあって。
自分の肩に顔を埋められているのだと分かった途端、触れた場所がみるみる熱くなった。
「違う…違うよ志乃さん。
俺が今、どれだけ喜んでるか分かる?」
「え…?」
ーーーー喜んでる…?
久しぶりに会った伊織は冷たくなってて、俺には愛想なんか尽きてて、もう新しい恋人だっている。
それなのに、今の俺のみっともない告白が嬉しいなんて、そんなわけがない。
そう、思うのに。
心のどこかで、もしかしてと馬鹿みたいな期待がチラついている。
「意味分かんねえよ、もう付き合ってる奴いるくせに…さっきだって、俺を置いて行こうとしてたくせに…!」
そう叫んだのは、そんな淡い期待を打ち消す為だった。勘違いをしてはいけないっていう、自分への戒め。
「…、それはーーー、」
ふるふると肩を震わせながら唇を噛んでいると、伊織がふと顔を上げた気配がした。
何を言われるのか分からなくて聞くのを恐れていると、
「違いますよ」
そんなか細い声が耳に届いた。
声を辿って視線を向けると、くりくりとした大きな瞳と目が合う。
ーーーさっきの、チワワ男。