恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
「藤君と俺は付き合ってないですよ。というか、もうとっくに振られてるんです」
「は、」
にこり。泣き笑いのような顔で笑ったそいつ。
伊織は唇を真一文字に結び、チワワ男をみつめている。
「ごめんね藤君。俺、何も知らないのに、もういなくなった人を想っても意味ないとか言って」
「…ううん、いいんだ」
「…頑張ってね。部長たちにはうまく言っておくから」
「うん、ありがとう」
ただ一人、状況が飲み込めていない俺だけが置いてけぼりで二人のやりとりをぼうっと聞く。
確かに、会話の内容からこの二人が付き合っているわけではなさそうで。ならいろんな辻褄が上手く噛み合わず、一層混乱する。
うん、切実に説明を求めたい。
「志乃さん」
「!」
悶々と考えていれば、突然呼ばれた名前に驚きピンと背筋を伸ばす。
そんな俺の様子にクスリと笑った伊織は、流石にもう抱きしめてはいないものの、腰に回していた手を離して俺の小指をそっと握った。
「志乃さんは怒るかもしれない。それでも、話を聞いてくれる?」
懐かしい、子犬のような困ったような顔。小首をかしげられ、思わず頷いてしまう。
ああ、そういえば俺、こいつのこの顔にすげえ弱かったんだっけ。
「じゃあ佐々木、後は頼んだ。飲み会が終わった後、帰ったら一応俺に連絡ーー「藤君、そういうところだよ」