恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
こんなの、俺がいない間あのチワワ男以外にも迫られていたんじゃないかと勝手に嫉妬してしまいそうだ。
どうしようもない嫉妬を追いやりたくて、俺を抱きしめている伊織の腕を辿り、弱々しく手を握る。
そのまま握り返してくれた伊織の力は、俺の何倍も強い。
そして大きく息を吐いた伊織は、俺の頭におでこをこつりと当てた。
「…珈琲店で、ひどい態度とってすみませんでした」
…あ、話してくれるのか。
「…確かに初めはビビったけど、ああいう態度を取られても仕方ねーことを俺はしたし、別にいいよ」
「ん…でも、あれはわざとだったって言ったら、怒りますか?」
「は?」
どういうことだよ?と、聞き返そうと思ったが、ここは黙って最後まで話を聞こうと口を噤む。
「ごめんね、ありがとう」と囁いた伊織は、そのまま言葉を続けた。
「初めこそ混乱してたんですけど、志乃さんが俺や真木さんに引け目を感じて消えてしまったのは、なんとなく分かってたんです。
だから、きっと俺がすぐに追いかけて行っても、志乃さんは罪悪感が増えるばかりで、きっと苦しくなるだけなんだろうなって、思ったんです」
ーーーああ、と心の中で頷く。
心の整理もできていなかったあの頃、もし伊織が迎えに来てくれても、俺は頑なに拒んでしまっていただろう。それだけは、分かる。
「だから、待ちました。真木さんと志乃さんが、お互い心が落ち着いてきただろうって頃まで」
それが、あの珈琲店で再会した日。