恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
「本当はずっとずっと会いに行きたかった。どこにいるのか知っているのに、会いに行けないもどかしさが辛かったです。
だからあの珈琲店で久しぶりに志乃さんに会って、本当に泣きそうだったんですよ?」
「…ん」
それは俺もだ。っていうか、俺はボロボロに泣いたんだけど。
「すぐに抱きしめたいくらい、会えたことが嬉しかったんですけど…。まだ確信を持てずにいました。
志乃さんの気持ちを強引に暴いて、俺の傍を選んでくれても、また離れてしまうんじゃないかって」
伊織の吐息が震えている。あの日、久しぶりに会った伊織は大人びていて冷静に見えていたのに、まさかそんなことを思っていたなんて。
「だから、賭けてみたんです。昔みたいに強引に心を奪うんじゃなくて、志乃さんから俺を求めてくれることを。全部吹っ切ってでも、俺の傍にいたいって思ってくれることを」
「…お前、まさか…」
それであのチワワ男の話を出したんじゃ…。
驚愕していると、グリグリとおでこを頭に押し付けた伊織は「すみません」と小さく謝った。
「それはもう、佐々木にもめちゃくちゃ謝りました。嫉妬してくれたらいいのに、なんていう俺のエゴで、佐々木の気持ちを利用したんですから」
佐々木ーーーはきっとチワワ男のことだろう。
馬鹿な奴、と思ったが、そんな行動をさせたのは俺が原因だし、なんも言えねえ。
「…それで、あいつはなんて言ったんだよ」
あの男、見るからに伊織にベタ惚れだったし、ものすごく傷ついたんじゃねーの。
と、やけに自分と重なるからそんなことを思ってみる。