恋人⇆セフレ
第13章 モヒート
まるで子供を宥める父親のようだ。
伊織の瞳は愛おしげに緩められ、「ほら」と俺に言葉を促してくる。
くそ。違うぞ。俺は子供なんかじゃない。お前より年上で、社会人の先輩でーーーー恋人なんだぞ。
俺はぐっと眉間にしわを寄せて、伊織の頬をつまんでやった。
「…伊織は馬鹿だ。簡単に他の奴に好きになられやがって」
「…はい」
「俺のせいで時間だって無駄にして、忠犬みたいにじっと俺を待って、お前が好きな男の気持ちを利用するなんて馬鹿なことをした」
「はい…」
本当に馬鹿でどうしようもない。
こんな捻くれた男のことなんて、さっさと忘れてくれたらよかったのに。
「でも」
でもな、
「ーーーーありがとう」
俺だって、馬鹿なんだ。
全部全部、嬉しかったんだ。
お前が待っててくれたことも、他の男の子となんか見向きもせず、俺の気を引こうとして。
今こうして俺の傍にいてくれていることが。