恋人⇆セフレ
第4章 上書き
「あれ、そんなに人いないですね」
「そうだな。ちょっとホッとした」
受付で厚みのあるマップを貰って、二人で覗く。
家族連れとカップルが多い中のこの組み合わせは、周りからはどう見られるんだろう。
「俺もここは初めて来たんすけど、すげー広いんですね!どこから見ます?」
「ここの深海魚ルートが気になる。お前は?」
「今日は全制覇する予定なので、どこからでもっていうことで、深海魚から行きましょう」
「は!?全制覇って、こんな広いのに行けんのか!?」
「行くんですよ!」
「あ、おい!引っ張るなって」
何がそんなに嬉しいのか、会ってからずっと笑ってるこいつに再び手を引かれて二人で歩き、「暗!」とか「きれー」とか、「クマでけー!」とか、I.Qいくつだよっていう感想を言い合いながら色んなルートを進んでいく。
なんつーか…
こんな風に手を繋いで、デートっぽい場所に来るのとかも久し振りで、なんだか若返った気分だ。
「あ、志乃さん危ないよ」
「わ、」
夢中で大きな体で泳ぐジンベエザメを見ていると、突然力強く肩を抱き寄せられて驚く。
まだ馴染みのない香り。
「すみません、子供とぶつかりそうだったので」
まだこんなに近くで聞きなれない声。
不覚にもドキッとして、慌てて距離を取る。
「志乃さーー「あれ?橘?」
ーーと、背後から聞こえてきた声に、心臓が飛び出そうになる。