恋人⇆セフレ
第4章 上書き
「…上松さん」
振り返ると、やはり休日に絶対に会いたくない上司ナンバーワンの男が奥さんと並んで立っていた。
すると、「こら」と隣にいる奥さんが、俺の足元に向かって怒ったような声を出す。
ーーーーまさか、今隣ではしゃいでるこの子供…
「悪いな、こいつらはしゃいでてぶつかりそうだっただろ」
やっぱり…!!!
視線を下に落とすと、兄弟らしい2人が水族館の売り場で買ったらしいぬいぐるみを抱きかかえ、じっと俺を見ていた。
あまりに無垢な視線を向けられて、グッと体を強張らせてしまう。俺はひくつく口元を抑え、にこりと笑った。
「い、いえ。子供は元気が一番ですから」
「…そちらの方は?休日にこんなところに一緒に来るなんて、仲がいい人なんだろ?紹介しろよ」
ピクッ条件反射でこめかみがひくつく。
…きたな。これがこの人に会いたくない理由。
この詮索したがり野郎。お前の口の軽さは有名なんだよ。
「あーーっと…。この子は弟の友人で。昔から慕ってくれてるのでたまにこうして会ってるんですよ」
「あぁ、そういえば弟さんがいたんだっけ?爽やか君だな〜美人のお前と並ぶとお似合いだぞ」
「はは」
笑えねえ。
「失礼よ」と奥さんに怒られても「大丈夫だって」とヘラヘラ笑う上司の鼻の穴を思いっきり掴んで潰してやりたい。
俺の性癖を知らないからこそ言えた冗談だろうが、そうであってもなくても言っていい言葉じゃねえだろーが。
と、一人悶々としていると、
「お似合いだなんて嬉しいですね」
なんていう言葉が聞こえてきて目玉が飛び出るかと思った。
まっお前…!?!
なんとしてでも口を塞いでやろうと考えるも違和感のない手段はなく、慌てる俺を知ってか知らずか隣の男は凍った空気など構わずにこやかに笑う。
「志乃さんはいつ見てもしっかりした方ですから、その人の隣に立ってても恥ずかしくないように見えてるのなら光栄です。
それからご挨拶が遅れてすみません。藤 伊織といいます」
「あ、あぁ」