恋人⇆セフレ
第4章 上書き
「今日は俺が我儘を行って連れてきてもらったんですよ。志乃さん優しいので」
「ははっそうか!俺も妻と子供にせがまれたんだよ。橘、意外と面倒見がいいんだな」
「…いえ、手のかからない弟のようで可愛いですよ」
少し動揺したけど、いつもの外面100パーセントの感覚を取り戻して、にこやかに笑う。
…というかこいつ凄いな。凍った空気が一気に和やかな雰囲気に変わった。しかもしっかり俺のフォローまでいれて…。
チラ、と横目で見ると目があって、ニコッと笑顔を見せられる。うーん。この愛嬌、ぜってー女にモテる。
「じゃあそろそろイルカショー始まるし、俺らは行くな。藤君をしっかり楽しませてやるんだぞ」
「はい。上松さんも楽しんで来てください」
俺らも行く予定だったけど、こいつもいるなら話は別だ。ゼッテー行かねえ。隣に来るに決まってる。
「…やっと行ったかクソ上司…」
一応奴が見えなくなるまで笑顔で見送って、見えなくなった途端仮面を即座に外す。
クソ、楽しかった気分が一気に下がったわ。なんで休日まで嫌いな顔を拝まなきゃいけねーんだよ。
ユラユラと揺れる水の影をあいつの顔に見立ててゲシゲシとつま先で突く。子供っぽい?余計なお世話だ。
ーーと、イラついている俺の指先が、ちょん。と握られて振り返る。
そこには楽しそうに笑う男。
「ーー楽しませてやれ、とのことですけど、志乃さん。何してくれるんですか?」
「…お前、俺があいつのこと嫌いって分かってて言ってるだろそれ」
「あははっバレました?
でも、そろそろ疲れましたよね?ショーはまた今度観に行きましょう。この水族館カフェも入ってるので、ちょっと休みましょうか」