恋人⇆セフレ
第4章 上書き
カフェ店員の予約した居酒屋は、まだ俺も行ったことのないこじんまりとした居酒屋だった。
けれど、店の中に入れば活気に満ち溢れていて、暖簾をくぐった途端に「らっしゃい!!」と店主らしき厳つい見た目の男の元気な声で迎えられる。
ほお、と店内を見回すと、開店時間直後に来たというのに席はほとんど埋まっており、人気店だということはすぐに分かった。
「ここ、焼き鳥専門の居酒屋なんです。すぐに席が埋まるので予約しないと入れないんですよ」
「へえ。楽しみだな」
身長の高いカフェ店員の微笑みを上から受けながら、素直にそういう。
そんな俺らを大学生っぽい若い男が「ご予約のお客様ですか?」と声をかけててきたから、全部カフェ店員に任せて、歩き出した男の広い背中にテクテクと付いていった。
個室ではないけれど、店の角に案内されて、割と落ち着く場所で良かったとホッとする。
「志乃さん、今日飲みますよね?」
「当たり前。お前は?」
「俺も飲みます。やっぱり生かな」
その言葉に実はちょっと驚いた。とりあえず聞いてみたものの、未成年って思ってた節があったからだ。だが、こいつはきちんと成人していたらしい。
思えば、こいつのことあまり知らねえかも。
…まあ、知ろうともしてなかったからだけど。渋々交換したラインの名前も「伊織」だったから、フルネームを知ったのもさっきの水族館でクソ上司に挨拶した時だったし…。