恋人⇆セフレ
第4章 上書き
我ながら最低な奴なんじゃないか?と気づき、店員に注文をしている爽やか男の顔をまじまじと見る。
初めてじっくりと見る男の顔は、存外整っていた。
少し明るめの茶髪はさっぱりと整えられており、切れ長の目に沿った綺麗な幅の広い二重が印象的で、鷲鼻だけれど細い鼻先と、笑うと覗く八重歯がこの男の愛嬌の良さを前面に出している。
スポーツか何かやっているのか、半袖から見える二の腕は程よく筋肉があり、手首にかけて筋が浮き出ている。
なのにほんのり焼けただけの肌とか、細い足首とか、スラッとした足を見る限り、サークルはバスケかバレーに所属しているんだろうか?
「志乃さん、そんなに熱く見られると流石に照れるんですけど…」
いつのまにか注文が終わっていた男は、照れたように頬を指先でかきながらそう言った。
「別に。あまりお前のことを知らないなと思ってただけだ」
そう言うと、パチパチと目を瞬かせた男。
不本意ながら、体はめちゃくちゃタイプだと思っていたことは黙っておこうと思う。
「確かに、こうしてデートしたのに、お互いあまり自分の事を話してなかったですね」
「デートじゃねえ」
「またまた。あ、生来ましたよ」
「お待たせしましたー!」と置かれたビールのジョッキはキンキンに冷やされており、冷気がふわふわと漂う。
あ、最高。
お通しはキュウリのカツオ和えで、腹の減っている俺はもう食べたくて堪らない。そんな俺に気付いているのか、八重歯を見せながら笑った男は「乾杯!」とジョッキを持って俺に向けた。