恋人⇆セフレ
第4章 上書き
まだ心配そうに俺を見ていた男だけど、触れない方がいいと感じ取ったのか、少しだけ身を乗り出し、ニコリとあの眩しい笑みを浮かべた。
「そういう志乃さんは学生時代何してたんですか?」
「は?俺?」
パリパリときゅうりを食べ始めていた手を止めて、瞬きをする。
「はい。今日はお互いの話をしてみませんか?もっと志乃さんのこと知りたいですし」
俺は別に知りたくない。
普段の俺ならきっとこの言葉を即座に言っていたと思う。
だけど、この無邪気な笑顔を一日中浴びていれば毒気も抜けるもので、俺は反論しないどころか真剣に学生時代の自分を思い出すことを試みた。
まあ、そのほとんどがやっぱり真木との思い出なんだが、この男はそんなに長い月日を共に過ごしていたとは知らないから仕方がない。
「そうだな、」
俺は追加できた塩ダレキャベツと、焼き鳥おまかせセットのモモ塩を口に入れて、出来るだけ真木とは関係のなさそうな話をした。
「結構意外だと思われるんだけど、飲みサークルに入ってたりした」
「ぶっえっ!?」
きたばかりの追加の生を飲んでた男が、思いっきりむせて目をまん丸にした。汚な、こっちまで飛んだぞ。
「す、すみません。俺の大学の飲みサーとか、めちゃくちゃテンション高いグループって感じですけど…」
慌ててお絞りでテーブルを拭いた男が、慎重に言葉を選びながらそう言う。
まあ、言わんとすることは分かる。人が多いところが嫌いな上、テンションの高い奴らといるイメージが全く湧かないんだろうが、一言で言えばあの時の俺はヤケクソだった。