恋人⇆セフレ
第4章 上書き
「い、伊織、」
思わず名前を呼べば、さらに抱き締められる力が強くなった。流石バスケサークル長。俺が全力で体をよじろうとしてもビクともしない。
まだ嗅ぎ慣れない、柔らかな香りが俺を包んで、耳元にかかる微かな吐息に、柄にもなく固まってしまう。
ドクドクと少しだけ早い鼓動が伝わってきて、伊織のドキドキが移ってしまいそうだ。
「すみません、少しだけこのままでいさせてください」
「っ」
耳元で話されて、思わずピクリと動いてしまう。声を出しそうになって、咄嗟に唇を噛んだ俺を讃えたい。
待て、待て待て、いい加減にしろっ
そう怒鳴りたいが、耳にかかる吐息が。背中に回っている力強い腕が。ぶつかる腰と腰が。全部、今の俺にとっては刺激が強い。離れたい意思はあるのに、体が動かない。
それでも体を奮い立たせ、逃げようとして体を捩れば、自身のソレと伊織の男の部分がフニッと当たってしまって本当に叫んでしまいそうだった。
ドキドキドキと恐ろしいほど速くなる動悸に吐きそうになってしまう。
ーーーあれから、真木と別れてから、セックスどころか自慰すらしていなかった志乃は、久し振りの人の体温に欲情を覚えていた。
勃ち上がりそうなソレを感じて、本当にまずいと思う。
「い…おり…っ」
懇願するような声に、伊織はハッとして僅かに体を離したが、志乃の顔を見た直後、再び心臓が止まる思いをした。
猫のような、少しだけつり目の大きな瞳は涙で僅かに潤み、肌はほんのり赤みがかっており、少しだけ開いた薄い唇は、酒を飲んだばかりだからか濡れている。
ほんの少し…固いようなソレは、伊織の気のせいなのか。それとも…
と、そこまで考えてしまった伊織の思考は、プツッと理性の崩壊とともに切れてしまった。