恋人⇆セフレ
第5章 俺の犬
早速パソコンを立ち上げ、真木から予め送ってもらっていたデータを開いた。
いくつかストーリーを組み立てたものを完成させているのは流石だ。昔から優秀なこいつは、一人でなんでも上手くこなすから、こうしてアドバイスする側として立つのは不思議な気持ちになる。
今はモトカレ、なんて意識に引っ張られがちだが、それ以前に俺はこいつのファンなんだ。
「恋愛ものは初めてだと伺ってますが、タイプの違う話が沢山送られてきたのでびっくりしました。流石ですね。
ーー個人的に、この話が面白かったのですが、先生はどうです?」
データをタップすると、簡単にあらすじが打ち込まれたタブが開く。
【見覚えのない記憶が不定期にフラッシュバックで現れる少女。そこにいつも現れるのは、一人の青年。いつしか彼女は出会ったことも話したこともない青年に恋をするようになる。一方その青年も同様にフラッシュバックで彼女と出会っており、恋に落ちていた。ーー二人が見ていた同じ光景は、前世の記憶であり、いくつもの生まれ変わりを繰り返す度、お互い惹かれあい、結ばれていたと知る】
出会うまでの焦れったい時間が読み手をそわそわさせるし、始めは記憶のないそれに恐怖を抱いていた少女が恋に落ちていく過程も丁寧に書けば美しい話になりそうだ。運命っていう王道なストーリーだが少し違ったスパイスもある。
そう言うと、「うーん」と言いながら、顎に手を添えて眉根を寄せる真木がPCを覗き込んだ。
少し近づいた距離に、無意識に息を止めて体を後ろに避ける。長い指が考えるように顎を叩き、少し開いた唇を見て、その色気にクラリとしそうになった。
くそ、意識するなよ。
「実は」
と、目線をこちらに向けた真木の意志の強いそれに、慌てて取り繕う。
「書こうとしてもどうも入り込めないんだ」
「登場人物にですか?」
「あぁ。初めての恋愛ものっていうのもあるんだろうけど、少女の気持ちに寄り添えない」
「…致命的じゃないですか」
「そ、死にそうなんだ」
軽くそう言った真木は明らかに死にそうではないが、悩んでるのは本当だろう。