恋人⇆セフレ
第5章 俺の犬
「砂糖入れ忘れてるぞ」
「…どうも」
さも当たり前のように砂糖2つを目の前に置いた真木。馬鹿め。本当はこれを入れても苦いもんは苦いんだよ。
本当はこれにミルク2つも追加したいが、それでもまだ格好つけたい俺は、黙って砂糖2つを入れてコーヒーを飲み込んだ。
「そのことだけど、その現地取材には志乃に来てほしい」
「…は?」
聞こえてきた声に思わず珈琲を吹き出しそうになって、慌てて飲み込んだ。
今度は、珈琲の苦味とは別の顔の歪みを隠すことなく晒してしまう。
今のは聞き間違いか?
「ーー…分かってると思うけど、この少女は志乃がモデルになってる。俺の恋愛人生は殆ど志乃が占めてるからーー…この舞台の場所で、志乃の気持ちも含めて色々知りたい」
ーーーー拷問か??
つまり、今まで真木に対して思ってたことを全て吐き出せって言ってるんだろ???
甘い感情も、醜い感情も、寂しい感情も、全部話せってこいつはいうのか?本人に?
ふざけるなと、カフェのど真ん中だが叫びたくなった。
人一倍相手の気持ちに敏感な癖に、俺に対しての扱いが雑じゃないか?!別れた相手に作品の為に色々聞き出して、赤裸々な感情を世に出す??そんなの全く正常じゃない。
ーー人として、は。
「ーー…それは、仕事ですか」
だが、こいつはプロの作家だ。自分を曝け出さずして、いいものが書けるわけがない。それには、俺の協力も必要なのは、散々揶揄しても分かりきっていた。
ポツリと呟いて、意志の強い瞳を見つめる。
真木はそんな俺の言葉にピクリとも表情を動かさず、薄い唇を開いた。
「担当としての志乃に頼んでる」
まじで、いつかこいつを殴り倒そうと心で強く決めた。