恋人⇆セフレ
第5章 俺の犬
「それで、行くんですか」
それからぴったり2週間後の俺は、決まってからすぐこの男に言わなかったことを後悔した。
隣から非難めいた視線と声が突き刺さってくるが、それは無視してパソコンで編集長へのメールを打ち込む。
今日は何度目かの伊織との外出日(決してデートではない)だったが、少し忙しい時期だったため渋々家に呼んで仕事をさせてもらっている。
「はぁ。志乃さん、コーヒー淹れましょうか?」
「いる」
それには返事をした俺にクッと喉で笑った伊織は、もう慣れた様子でキッチンで珈琲を作り出した。
「カフェラテにしますね」
「ん。今日はバッシュ見に行く予定だったのに悪いな」
「いえ。家に来れるのはラッキーですし」
にこ、と白い歯を見せながら笑みを浮かべ、伊織は慣れた手つきでペーパーフィルターを広げてセットする。
実を言うと部屋に入れるのは初めてではないし、伊織と会うのも両手で足りなくなってくる頃だった。
初めは家に上げることを躊躇っていたが、泥酔した俺を運んでもらった時に家に上げてからは、吹っ切れてこうして呼んでいる。
「あ、そういえばそれ、何日からとかってもう決まってますか?」
「ん?あーー、確か来週の火曜だな」
「…ってことは行くんですね」
「……」
コトン。とテーブルに淹れたてのカフェラテを置いた男を、騙したな!と睨むも、そんな簡単な罠に引っかかった自分が恥ずかしくなる。
「ちゃんと割り切った仕事だし。やりたくなくてもやらなきゃいけねーの」
「…分かってますよ。それに、俺がどうこう言える立場じゃないのも」