恋人⇆セフレ
第5章 俺の犬
眉を下げてそう言った男は、ソファに座る俺の隣に体を沈めると肩を竦めた。
(どうこう言える立場…か)
カタカタと事務的にキーボードを打ちながら、頭の隅で伊織の言葉を反芻する。
こいつとの将来を一度も考えなかったわけではない。伊織はそれほど気を遣わなくてもいいし、大学生のくせに、俺をとことん甘やかすのも上手い。
…真木にはもう相手がいるのだから、俺が後ろめたく感じることも、いい加減真木を引きずるのもやめた方がいいのは分かってるんだけど…。
「来週の火曜日ってことは、その前の土日は空いてます?」
「え?あぁ、まあ、空いてるけど」
考え事をしていた時に唐突に問われ、間の抜けた返事をしてしまった。
最近こういうの多くないか?と恥ずかしくなってる俺に、伊織はパッと嬉しそうに笑う。
「じゃあ、サークル来てみませんか?その日、一般参加者と自由に試合できる日なんですよ」
「試合?バスケか?」
「はい!折角出入り自由になるので、良かったら観にきてほしいんです」
初めから観る要員として誘われたのは複雑だが、俺が球技は壊滅的なことをこいつも知ってるからこその誘い方だろう。
まあ、いつもならそんな暑い場所にわざわざ出向いたりしないけど…
餌を待つ犬のようなキラキラした瞳を見せられて、頷かないわけにはいかず、ため息を吐いて降参する。
「いいよ。何時から?」
「ほんとに?やった。詳細はまたおいおい連絡します!」
「ん」
伊織の手が抱きつきたいけど抱きつけないと、そわそわしているのを密かに笑って、また温かいカフェラテを口に運んだ。
伊織と初めて出かけたあの日から、心境の変化が1つもなかったとは言えない。
伊織と一緒にいて苦ではないし、偶にドキッとすることはあった。
もっと俺も、伊織とのことを真剣に考えなくてはいけない。
ーーーこの男を受け入れるのか、受け入れないのかを。