恋人⇆セフレ
第5章 俺の犬
何が合図かは分からなかった。
「ーーーーっ!」
けれど、お互い同じタイミングで、かさついた唇に噛みつくようなキスをした。
「はっんん、うっ」
「ん、」
伊織の薄い唇が俺の上唇を食むようにキスをしてすぐ、角度を変えて、下唇を食む。それを何度も繰り返していると、腹に涼しい空気が入り込んできた。
その空気とは正反対の熱い手が裾から潜り込んできて、肌が愛撫されていく。
「ンッしのさ、」
俺も伊織の柔らかい髪に指を沈めて、負けじと唇に噛み付くと、背中に回された手にグッと力が入って抱き起こされた。
向かい合うように太ももの上に座らされて、俺が伊織を見下ろす形になる。伊織はこの体勢の方が力が入りやすいのか、ますます俺を抱き込んでキスを深めていった。
クチュッチュルッ
奥にいた俺の舌を容易く攫って、淫らに絡めて奪われる。息継ぎも鼻だけなんかじゃ足りなくて。熱のこもった息をお互い吐き出しながら、それを飲み込むように唇を求め合った。
「あっつい」
ーー伊織はチュッと音を立てて少しだけ離れると、髪をかきあげて無邪気に笑った。こんな甘い場面でも変わらない笑顔に、俺もふっと笑う。
「脱がせてやる」
「えっ」
「じっとしてろ」
「わっえっえーーっ」
「ふはっうるせえよ」
びっくり嬉しいみたいな様子の伊織は、きちんと言われた通りにじっとして、俺の指の動きを目だけで追う。
「ーーーー、」
そして、俺が伊織の爽やかな顔立ちとよく似合う青シャツのボタンをどんどん外していくと、何度か頭の中で思い浮かべていたよりも、はるかに綺麗な肢体があらわになった。