恋人⇆セフレ
第6章 悪夢
伊織に証明したいのは山々だが、格好が格好だ。安易に出られないし、あまりにもタイミングが悪すぎる。
内心焦りながらも、真木相手に仮面を被るのは随分慣れたらしい。俺は存外落ち着いて、真顔に外用の声を乗せて話しかけた。
『すみません、確認出来てませんでした。ご用件は急用のものでしょうか?作品のご相談でしたら後ほどデータを送ってもらって、確認してから電話できますが』
『そのこともあるんだが、さっき差し入れを渡しに編集部に立ち寄ったら、編集長から志乃への預かり物を受け取ったから持ってきたんだ。預かり物だし外に掛けておくのもどうかと思って』
思わず額に手を当て、いつもマイペースでにこやかな編集長の姿を頭に思い浮かべた。
編集長…契約している、しかも大人気作家をおつかいさせるなよ…。
怒りのあまり頭からツノが出てきそうになりながらも、極めて柔らかく言葉を返す。
『分かりました。編集長の無理なお願いを聞いてもらってすみません。受け取るので少し待ってください』
『あぁ、分かった』
はあーーーーーーッ!!と、一旦受話器を置いて、我慢していた溜息を盛大に吐いた。まじで覚えてろよ編集長。
「大丈夫ですか?」
俺の様子に既に着替えた伊織が心配そうな顔を浮かべ、着替えを持ってきてくれた。
「悪いな、ありがとう。すぐに終わりそうだからちょっと待っててくれ」
「はい」
伊織から着替えを受け取って急いで着替え、さっさとアイツには帰ってもらおうと走って玄関に向かう。
そして、適当に靴を履くとサイズが違うので伊織のものかと思いつつ、扉をガチャリと開けた