恋人⇆セフレ
第6章 悪夢
「志乃さん!?」
ドシンとした音を聞きつけた伊織がすぐさまリビングの扉を開け、俺の姿を視界に入れてすぐに動きを止めた。
そんな伊織に驚いた真木も、動きを止めているのがわかる。
俺もまた、床いっぱいの視界で、痛みと恥ずかしさで動くことを放棄した。
「え、と…?と、取り敢えず、大丈夫ですか?」
「うるさい、俺は転んでない。寝転んだだけだ」
「うーーん、そういうことにしておきます」
「転んでないぞ」
「はい、はい」
困惑と笑みを声に乗せて、駆け寄った伊織が俺を抱き起す。
なんだよもう。こんなはずなかったのに。
「あの、貴方は大丈夫ですか?具合でも?」
「…俺は大丈「熱。あるみたいだから、とりあえず水を飲ませてタクシーで帰らせようとしてたところだったんだ」
「なるほど。じゃあ俺は水を取ってきます」
「頼んだ」
さっとリビングに消えた伊織の背中を真木が追っているのが気になりながらも、俺はタクシーを呼ぼうと携帯を取り出す。
それから電話帳の中から番号を探しているところで、真木のはっと小さく笑った声が耳に届いた。
「もしかして、俺は邪魔したのか」
「、」
ギクリと体がこわばる。
しかも、声色に自棄的なものが入っているように感じて目を向けると、荒く呼吸をしている真木は思いの外柔らかな笑みを浮かべて目を瞑っていた。
ーーーーーーだけど、なんでだ?
その声はなんだか悲しそうで、俺が裏切ってしまっているように感じてしまったのは。