恋人⇆セフレ
第6章 悪夢
「ここ学校だけど」
そういいつつも、やっと構ってくれたことが嬉しくて、すぐに機嫌が直ってしまうのが悔しい。
俺の癒しの元である男ーーー沢城真木もそれをわかっているのか、固すぎる表情筋を動かして僅かに笑うと、持っていたペンを片付けた。
「悪い、もうこんな時間だったんだな」
「いつものことだろ」
「耳に痛いな」
真木は高校生にしては大人っぽい顔立ちだが、こうして困らせると幼さを表情に滲ませるのが好きだと思う。
仲良くなってやっと見れるようになった顔だから、密かにこいつのファンの女子達からしたら大分貴重だろうな。
「真木さー、毎日毎日図書室で小説書いてて飽きねえの?」
「飽きると思うより先に締め切りが来るんだ」
「へーさすが大人気作家」
茶化すようにそう言うと、指の背で頭を小突かれる。
鬱陶しいからと言って長めだった髪を切ってしまってから、ほんの少しだけ表情が分かりやすくなって、真木の楽しそうな横顔が見えて嬉しくなった。
「でも、毎日待つことないぞ。帰りたい時は帰ってくれて構わないからな」
「やだよ。ただでさえ作家デビューしてから一緒に遊べる日少なくなったのに」
「それも耳に痛い」
また苦笑した真木は、机に広げていたノートとペン入れを鞄にしまって立ち上がった。俺も続けて立ち上がって、いつものように背の高い真木の隣に立つ。
「食べたかった味売り切れてたらどうする?」
「その時はお詫びになんでもする」
「よし。それはもう売り切れててもらわないとだな」
「なんだよ、それ」
呆れたように言いながらも、なんの躊躇いもなく優しく手を握ってくれる。今日も疲れゲージが溜まっていた俺は、それだけでうっかり泣きそうになった。