恋人⇆セフレ
第6章 悪夢
お粥を食べていたらしい真木の顔色はすっかり良くなっているが、そう気まずそうな顔をされると居たたまれなくなるからやめて欲しい。
俺だって楽しくて元カレにこんな姿を見せたわけじゃないんだぞ…!
「えーーと、さ、澤木先生。もう大丈夫なんですか?薬もあるので食べ終わったら飲んでください。あ、タクシー呼んでおきましょうか!」
微妙な空気をなんとかするべく、ソファにすたすたと戻り、何も喋らせまいと早口で言い切る。
「えーとタクシータクシー」
だが、「絶対口を開くな」と携帯を開いて隙をなくしている間も、遠慮のない視線が向けられているような気がしてならない。いや、ビシビシと感じる。やめろ、穴が開く。
「…タクシーは構わない。そこまで世話になるのも悪いから、すぐに帰るよ」
「え?」
小さな溜息の後、喋るなというオーラを無視した真木は静かにそう言った。
手を止めて思わず真木を見ると、ゾッとするほど感情の見えない表情を浮かべていて、今度はこちらが言葉を出す隙が見えなくなる。
ーーその表情は、久しく見る顔だった。
仲良くなる前の、真木の顔だ。
「真木…?」
なんだか怖くて、名前を呼んでしまう。
すると、真木は強めに椅子を引いて立ち上がった。目の前に座る伊織も、どうすればいいのか分からない様子だ。
「色々世話になって放置するのもどうかと思うが、急用を思い出したから帰らないといけない。すまない」
「薬は、」
「家にあるから構わない。ありがとう」