恋人⇆セフレ
第2章 お前がそうするなら、
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「あの使えねえ上司、自分の失敗を押し付けてんじゃねえよ」
おかげで終電過ぎたじゃねーか。
夜も深く、家の灯りもなく街灯だけの光を頼りにずかずかと進む。腹も減ったし、喉も渇いたし、最悪の気分だ。
今朝といい、仕事といい、今日はなんだかついていない。
舌打ちをしたい気持ちを抑えて、早くネカフェに行こうと歩みを進める。
「…あ?」
けれどふと、ここがネカフェに向かう道のりではないことに気がついた。
「……は、まじか」
すぐそこには見覚えのあるマンション。
それは。何度も足を運んでいた場所。真木の住むマンションだった。
「…慣れって怖え…」
終電を逃した時も、部屋で過ごす時も、セックスする時も、大体真木の家だった。もう無意識に足を運ぶほど、体が覚え込んでしまっている。
ーー上等だ、と鼻を鳴らす。
「偶々通りかかったんだ。この2週間の言い訳、聞いてやらんこともない」
今ならまだ許してやる。そんで俺だって溜まってるんだから、少しくらい発散させろ。
ーーそう思ったのがバチが当たったのか、それとも今日はとことんついていないのか。
いや。多分、ついてない日はとことんついていないらしい。
「真木く〜〜ん、おんぶして〜」
入り口に足を進めた瞬間、反対側の道から聞こえてきた耳につく甘ったるい女の声に、俺は咄嗟に身を隠した。
ーーー真木…?
アイツの無愛想な顔が浮かんで、すぐに消し去る。
だって、そんなはずがない。アイツは元々男が好きなんだ。女なんかと一緒にいるはずがない。
きっと、他のーーーー…
「しっかり歩いてください。飲みすぎですよ」
男の声が耳に届いた瞬間、ガン、と、頭に衝撃が走った。