恋人⇆セフレ
第7章 木漏れ日
何もしないでワガママだけ。そんな自分から脱却すべく、伊織には何かをしてやりたいと思っていたけれど…。
ーーー手作りに飢えている。
さっき聞こえてきた言葉を心の中で反芻して、数秒考える。
確か、アイツもあんまり料理しないって言ってたな…。男の一人暮らしだし、朝から弁当を作るわけでもないだろう。
次に会う交流試合で、弁当を作ってやるのもありか…?
『志乃さんの手作り!?うわ、やば、嬉しい』
弁当を渡して、喜ぶ伊織の姿は容易に想像できる。
尻尾を振って嬉しそうに笑う伊織は、少し見てみたい気もするし。
「…やるか」
伊織の笑う顔を思い浮かべると不思議とやる気が出る。あいつはコロコロ表情が変わるから、見ていてこっちの気が抜けるほどだ。
俺は意味なく見ていたスケジュール帳を畳んで、まだ会話に花を咲かせる女三人組に近づいた。
「あれ、橘さん!どうされました?」
一番に俺に気がついたのは、恋人に弁当を作ったという女性だった。
その一言で、両側に座っていた二人も驚いた様に俺を見る。
俺は微笑みを作り、座っている三人に威圧をかけない様腰を軽く屈めて話しかけた。
「すみません。盗み聞きの様になってしまって申し訳ないのですが、弁当を作ったと話が聞こえて…」
「えっうわっごめんなさい、声大きかったですか!?」
恥ずかしそうに頬を染めた女性に「いえ」と優しく否定し、いいから弁当の話が聞きたいんだとにこやかに言葉を続ける。