恋人⇆セフレ
第7章 木漏れ日
「実は、俺も弁当を作りたいと思って…。でも、恥ずかしながらどういうものを見て作ればいいのかもわからない状態なので、参考に教えてもらいたいなと」
「ああ!それは勿論!もしかして恋人にですか?」
「それはノーコメントで」
どうぞどうぞと三人が持ってきてくれた椅子に座り、なぜか女子会の様になった場で色々聞く。
オススメのサイトとか本とか、あと弁当には栄養バランスと彩りが大事だとか…。
なるほど、弁当は思いの外奥深い。
いつの日か、クラスメイトが持ってきてくれた弁当は、そんな感じの弁当だったなと思い出す。
まあ簡単に言うと、つまりは愛情らしい。
(…愛情ねえ…。)
三人は俺が恋人に作ると言う前提で話を進めているが、まさか相手が男だと思っていないのだろう。女子向けのおかずも教えてもらったが、伊織の物足りなさそうな顔を思い浮かべると、思わず笑ってしまう。
『志乃さんってベジタリアンとかですか?』
なんて真剣な顔で言ってきそうだ。
ーーーーと、勝手に想像していると、いつの間にか三人がぽかんと俺を見ているのに気づいて、上がっていた口角を瞬時に真っ直ぐに戻した。
「…橘さん、本当にその人が好きなんですね」
「違います」
驚いた様な、呆けた様な一言に即答すればするほど怪しいのは分かっているのに、長年の捻くれのお陰で勝手に口から言葉が出てしまう。
くそ。あいつのことを考えるとどうも気がぬける。
「それにしても、このこと知ったら泣いちゃう女の子出てきそうですよ」
「まさか」
「いやいや本当に!密かに橘さん狙ってる子沢山いるんですよ?でも、他の子が入り込める隙がない感じですし、逆にすっぱり諦めて応援されちゃいそう」
「はは、俺は誰かに想われるほどの男じゃないですよ。
ーー…そろそろ休憩も終わりますね。沢山情報ありがとうございます。是非参考にさせてください」
面倒臭い展開になりそうな空気を悟り、極めて自然な理由を並べて立ち上がった。