恋人⇆セフレ
第7章 木漏れ日
「お幸せに!」
と、志乃は背中に投げかけられた言葉に白目を剥きそうになりながら、早速お弁当の具を頭の中で思い描くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これは食い物なのか…?」
伊織との約束の日の朝。
つい先日買ったばかりのクマのエプロンを身につけた志乃は、弁当箱を前に絶望していた。
それもそのはず。
性格が不器用だけでなく、手先もとことん不器用な志乃が作った弁当(のはず)は、まるで地獄絵図だからだ。
握ったおにぎりはラップから外せば崩れ落ち、卵焼きはほとんどスクランブルエッグ。気合いを入れて作ったはずの唐揚げは、油の温度を上げすぎて焦げがついており、何事もなく弁当に詰められたのはちぎるだけの野菜だけだった。
彩以前に形の問題があまりにもデカすぎる…。
「手を死守することに気を取られれば取られるほど食材はぐちゃぐちゃになるし、食材を気にすれば気にするほど指を切ってしまう…世の料理を嗜む奴らは一体どんな技を持っているんだ…」
ボロボロの指とぐちゃぐちゃの弁当を見やり、ため息を吐く。
折角俺が作ったんだから死んでも食べさせるけど、さすがにこれでは可哀想だから、行きにコンビニに寄ってパンでも買っておこう。
レトルト頼りの生活をこんなに後悔する日が来るとは…。
「っと、やばい。待ち合わせに遅れる」
ふと見上げた時計の針は、朝の8時をさしていた。待ち合わせは8時半に駅前。ここから歩きで15分はかかるから、コンビニに寄るとなると今すぐ出ないと遅刻だ。