恋人⇆セフレ
第7章 木漏れ日
急いで弁当箱を包み、小走りで玄関へ向かう。
財布、時計、携帯、弁当。よし、忘れ物はない。
頭の中で持ち物リストを浮かべながら、靴に足を突っ込む。
「やべ、これ走らねえとじゃん」
腕時計を確認すると、もうすでに五分が経過していた。
ポケットに入った携帯が鳴っている気がするけど、仕事用の着信じゃないし今はそれどころじゃないと扉を開けた瞬間、
「うわっ」
という、気の抜ける声がした後、目の前にでかい壁があることに気づき、俺も「うわっ」という間抜けな声を漏らした。
「な、え、い、伊織!?」
「あはっすご、着いた瞬間志乃さんが出てきた」
でかい壁は、白い歯を見せて無邪気に笑う伊織だった。
Tシャツにスウェット生地のジョガーパンツ、黒のキャップを着こなした伊織は、まるで悪戯が成功した子供のように笑っている。
瞬きする俺の顔を覗き込んでピースをした伊織は、「驚きました?」と聞いてきた。
「お、どろくに決まってんだろ。待ち合わせは駅だったろ?」
「そうだったんですけど、思ったより早く着いちゃって。そしたら早く志乃さんに会いたくなったので、きちゃいました」
「きちゃいましたってお前…」
入れ違いになるかもだし、連絡しろよと言おうとしたところで、はたと気付く。
まさか、さっき鳴ってた携帯って。
確認すると、思った通り伊織の不在着信が入っていた。
「おせーよバカ」
着いてから連絡してどうするんだ、と思わず笑う。
どちらかというと本能で動きがちな伊織は、たまに抜けているから見ていて飽きない。
「気持ちが先に行きすぎちゃって忘れてました。あ、ほら、今日暑いし、これ被ってください」
いつものごとく楽しそうに笑う伊織は、徐にキャップを脱ぐと、ぽすりと俺の頭に被せた。
ああ、またそうやってナチュラルに甘えさせる。