恋人⇆セフレ
第7章 木漏れ日
「俺は女じゃないんだから、あんまり甘やかすなよな」
「却下です。大事にしたいんですから甘えてくださいよ」
「…!!!」
さらっと凄いことを言い返され、はくはくと口を動かすだけの俺の手を取った伊織は、意気揚々と歩き出した。
「勘弁してくれよ…」
結局いくら抗議しても離してくれず、真っ赤な顔のままマンションから出ると、途端に夏の日差しが照りつけてくる。
最近鳴き出した蝉もだんだん増えてきだし、朝だというのに空気がじめっているから、伊織が帽子を被せてくれた理由が少しわかった。
「 実はずっと気になってたんですけど、そのお弁当箱って俺のだったりします?」
「!」
半ば強制的に足を進まされた俺の前を歩く伊織が、横目を俺の手元に落としてすうっと細めた。
その視線は、俺の左手にある弁当を見ていて。
「違う!」と思わず反抗しそうになる唇をキュッと噤んだ。
ーーーこいつに何かしてやりたい。そう思って作ったんだ。それを否定なんてできない。
お前の笑顔が見たくて作ったんだから。
並木道に入ると木陰が揺れて、葉の隙間をかいくぐった細かい光がキラキラと伊織を照らす。涼しい風が熱気を払って、志乃の頑なな意地をも攫っていく。
「ん…お前に食べて欲しくて作った…」
素直にそう口にすると、驚いたように目を瞠った伊織は、途端に顔を朱に染めて目を泳がせた。
「…ーーえ、えーーと、それは、そう、ですか」
「…人がせっかく素直になったのになんだその反応は」
「いや、て、てっきり違うって否定されると思っていたので、不意打ちだったというか…今すぐ抱き締めたくて堪らないっていうか…」