恋人⇆セフレ
第7章 木漏れ日
「だっだきっ!?」
外でなんて恥ずかしいこと言ってんだこいつ…!!
ブワッとお互いの体温が上がったのが、繋がっている手から伝わってくる。
さっきまであんなに耳元で騒いでいた蝉の声も遠ざかって、俺たちの周りだけなんだか静かになったような気がする。
呼吸すらも苦しくなって、そっと背の高い伊織を見上げると、柔らかな髪が風で揺れる度に覗く耳が、僅かに赤いのに気づいてこそばゆくなった。
「さっきから志乃さんが可愛過ぎるんです。…さっき家の鍵にシロクマのキーホルダーつけてるの見つけた時、俺がどう思ったか分かりますか?」
「っ!」
驚いて目を瞠る。
実は、初めて一緒に出かけた水族館で伊織が買ってくれたしろくまキーホルダーは、伊織にバレないよう家の鍵につけていたのだが、慌てていた為か先程のゴタゴタの際に見つかっていたらしい。
くそ、なんなんだ今日は。色々、なんか、ダメだ。
「あ、あれはそっくりさんだ」
「ふはっ確かに、そっくりさんは沢山いますね」
「最近似たようなシロクマはどこにでもいるからな!」
「はい、はい」
軽やかな笑みを零しながら、いつものごとく俺の捻くれに付き合ってくれる伊織。
結局駅にたどり着くまでそんな言い合いは続き、不貞腐れた俺は、伊織の嫌いなたらこおにぎりを2つ買ってやった。