恋人⇆セフレ
第7章 木漏れ日
「え、今日試合するとか告知してなかったよね?」
伊織の驚いたような口ぶりから、普段の様子を察する。もしかしてあれはまだ少ない方なのだろうか。
「あいつらの情報網舐めんなよ、王子様の伊織君。お兄さんもいい加減自分がモテるって自覚しろってこいつに言ってやってくださいよ〜」
「東。この人に意味の分からない話を振るな」
「だって本当じゃないっすか?ね?」
「…はは」
男に同意を求められるが、乾いた笑いしか出ない。笑えただけでも褒めて欲しいくらいだ。
まあ、どうせ伊織はモテてるんだろうなと思ってたから驚きはしない。驚きはしなかったが…。
「ほら手振ってやれって〜!」
「ちょっと東、」
無理矢理猿男(命名)が伊織の手を掴んで振らせると、また黄色い歓声が上がる。
白い肌を桃色に染めて、「目合った!」と騒ぐ女た
ちを横目で見て、思わず顔を顰めてしまった。
ーーーーーー面白く、ない。
別に伊織はあの女たちに興味があるわけじゃないって分かってるのに、嫌だ。
あいつらの伊織じゃないのに、「私と目があったの!」と言い合う女たちに嫌な感情が沸き起こる。
このモヤモヤは苛立ちに変わって、ちゃんと抵抗しない伊織にも、ヘラヘラ笑う猿男にも腹が立って仕方がない。
「お前の腹筋も見せてやれば?たまにはファンサ大事だぞ〜」
「お前な…」
と、ユニフォームの裾をあげようと猿男が伊織に手を伸ばしたのを見た瞬間、俺の中でブチっと何かが切れた。
「伊織」
「、」
咄嗟に出した声が低くて、伊織も猿男もピタリと動きを止める。
「弁当、食べるだろ」
なんでこんな幼稚な感情で年下の男をビビらせてるんだ、俺。
そう思うのに、口が止まらない。
「別にいらないなら持って帰る。お前はたらこおにぎりでも食ってろ」
ぽいっとおにぎりが入った袋を渡すと、咄嗟に受け取った伊織が「え、え?」と戸惑ったような声を出した。