恋人⇆セフレ
第7章 木漏れ日
俺だって「えっ?」って言いたい。
この吐き気がするような甘ったるい黒いモヤモヤはなんなんだ。
これ以上ここにいたら、気持ち悪くて倒れてしまいそうだ。
「じゃ、もう観終わったから帰る」
「待って志乃さん!」
伊織の制止する声を無視して、女たちのいない出口の方に足早に向かう。
ーーその間で、頭の中でもう1人の俺が「馬鹿だな」と笑っているのが聞こえた。いい加減観念しろと。
煩い。煩い。
ーー俺は嫉妬深いんだから、もうその意味は分かってるんだろ?
やめろ、俺はまだ…。まだーーー…
イライラモヤモヤと色々なものが綯い交ぜになる頭の中で、1つの答えが垣間見えて頭を振る。
なんでだよ。ムカつく。伊織のくせに。
「…なあ、あの綺麗な人、お前のお兄さん?」
「ち、がう。違うけど…えっと、バイト先で仲良くなった常連さんなんだ…って、それはいいから、行かせてよ」
「待てって。お前が行ったら女子達が煩くなるだろ?あっちをどうにかしてから行けって」
背後から聞こえてきた伊織の言葉に、また黒い靄が深くなる。
伊織はカミングアウトしていないのだからそれは当然の答えなのに、その返事の内容も気に入らなくて。
なんならその猿男に掴まれている手にすら腹が立った。
「気持ち悪い…」
俺は、もうどうにもならない感情から逃げるように、体育館を出てすぐに走った。
くそ、絶対明日は筋肉痛だ!とキレながら、回転がぎこちない足を必死に動かす。