恋人⇆セフレ
第8章 したい、させたい
「あれから2年、長かったなあ」
たまたま行き着いた憩いの場のベンチに肩を並べて座った俺らは、少し遅めの昼ごはんをとっていた。
そして、伊織がそんな言葉を呟いたのは、悲惨な弁当の最後の一口を食べたあとで。あまりに脈絡がなく首を傾げる。
「何が?」
「いえ、こっちの話です」
口元を指先で拭って、ご馳走様ですと手を合わせた伊織。
カチカチの唐揚げを「歯が鍛えられそうですね」と完食した伊織は勇者だと思う。
味は聞かずとも分かっているけど、腹を壊したりしないかが心配だ。
「体調は大丈夫なのか?」
「ふ、そんな即効性がある弁当はなかなかないですよ」
「火は通しすぎたくらいだから大丈夫だとは思うが、万が一があるだろ」
一応薬は用意してある。胃薬と腹痛治めの薬と気付薬と。
あとは来るときに買ったスポーツドリンク。
それらを全部自分の膝に乗せていくと、伊織はもう我慢ができないとでも言うように吹き出して、声を出してケタケタと笑った。
「志乃さんってたまにズレてますよねっ?」
「は、はあ?!俺はお前を心配してだな…!」
ムッとなって薬を押し付けると、その手を優しく包まれ、眩しい微笑みが上から注がれる。
「分かってます。美味しかったですし、大丈夫ですよ」
「お前なあ…」
そうやって言う奴の方が危ないんだ。つーか美味しかったとか余計な気を遣うんじゃねえ!
「志乃さん」
「なんだよ…っ!?」
と、無理矢理薬を押し付けた俺の手をぐいっと掴み引き寄せた伊織は、不意に甘い顔へと変えて俺の耳元に唇をつけた。
「今日は志乃さんをぐずぐずにするまで抱く予定なので、お腹を崩すわけにはいかないでしょ?」
ふっと熱い吐息が耳にかかり、甘い声が鼓膜を震わせた瞬間、全身にしびれが起こる。
一気に熱も引き上がり、心臓がドクンと大きく脈打ち出した。
「い、伊織…」