仔犬のパレード
第3章 首輪
でも疲れたなんて言ってらんない
俺はもう1度、時計を見た
11:26
材料何があったかな…
12:00には智が起きてくる
智は起きてすぐ飯を食えるという要らない無駄な特技があって、だからすぐに飯を要求する
…文句は言えない
てか言いたいと思わない
こうやって過ごせるのは、智がいるからだ
今、此処で稼ぎがあるのは智だけ
俺はそれで生きている
だから、少しでも役に立ちたい
少しでも力になりたい
いや、ならなければ
そうじゃないと俺は…
雅紀「翔」
翔「ぁ…ん?」
キッチンへと向かう俺に声を掛けてきたのは、広間の真ん中に鎮座するソファーの前に座る雅紀
雅紀「ここ。わかんない」
ニコニコと、包帯をした指で示しながらペラッと挙げて見せてきたのは
昨日、俺が渡した課題
翔「あー数学か…悪い、これから昼飯作らなきゃなんねーから、午後でもいいか?」
雅紀「…うん。いいよ」
ニコニコと笑う雅紀
その顔はまた、ローテーブルへと向けられた
雅紀は、真面目だった
毎日 俺が出す課題は最後までやったし、分からなければ聞いてきた
ニコニコ
仮面の様に貼り付いた笑顔
不気味な笑顔
表情に出にくい分、そしてこれに伴って感情も出にくくて、何を思い、何を考えているのかが、比較的まだ潤の方が分かりやすいのに反して、雅紀は察知しにくい
だから、注意してたんだ
少しでも気持ちを汲み取ってやりたくて
…でも
俺は疲れてて
疲れると覿面に観察力も思考能力も落ち
そして無い脳ミソが
いつもよりズキズキと痛み出す
だから…
俺は潤が変な事にも
雅紀が変だった事にも
その時 気が付く事ができなかった