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仔犬のパレード

第3章 首輪





ポタ……


また、真っ黒の絵具が垂れる


……行かないで……


…行かないで…


行くなよ そんなとこ


智「翔?」


頬に触れたままの手


翔「…、」


口から出そうになる感情

それを、ぐっ。と唇を噛み締め押さえれば


智「……どうした?」


智の細い指が、唇を撫で
その瞳が、不思議そうに俺を覗き込む


翔「……」


やめろ…見ないで

その瞳に全部見透かされそうで怖い


でも
そう思う反面…今も尚 真っ直ぐ俺を見続けてくれる瞳に泣きそうになる


もう…
翔「………さと」


智「あ!わかった!」


翔「ぇ…」


わかっちゃったもんね俺♪的に
へらっと顔を綻ばせた智


翔「な…なに…を…?」


まさか俺のこの感情がバレ…


智「ヤりたくなったんだろ」


そう。

自信満々に言った





……


は?


翔「…ちげーし」


つーか
全っ然ちげーし!!


智「え?違うの?えぇ?なぁんだぁ」


そう言って唇を尖らせ
それはまるで、ただのクイズの答え合わせの様





智「飯にしよ。腹減った。
雅紀ー。潤 呼んできてもらっていい?昼飯って」


俺から視線を外し、するり。と手が離れていく


雅紀「はーい」




翔「………」


…なにこいつ


はぁ……なんか、もぉどーでも良くなるわ


智「あ、翔」


翔「…なんだよ」


智は俺に振り返り


智「今のうちに休んでおけ」


翔「、」


真面目な顔で言って離れていった






…んだよ
訳わかんねぇ

真面なのか、ふざけてんのか



てか、ちげーだろ


休むべきなのは俺じゃない


俺でも、和也でも
雅紀でも潤でもない


智。なんだよ





あの日が来る度に
何も出来ない自分に嫌気が差すんだ


ボロボロになって帰ってくる智

ろくに飯も水分も取らせて貰えず
更に痩せて帰ってくる智


それでも俺は何もできない


出来ることと言えば

少しでも
智が傷付かず帰って来て

そう願うことと


俺の分の飯を減らし
智にと…


たった たった
それだけだ……








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