
仔犬のパレード
第3章 首輪
翔「え…智?何してんの?」
思わず、すっとんきょうな声を出しちゃったのは
俺が寝起きだから。ではない
智「ん?あぁ翔。まだ寝てて良かったのに♪」
ご機嫌な口調
なんなら、ちょっと鼻歌混じりで…
翔「…ありがとう。もう十分……で、何してんの?」
返ってこなかった質問をもう1度
智「んふふ〜♪」
…
……
気色悪い…
んふふ。と笑う智が居るのはキッチン
普段、水を飲む時位しか立たないキッチン
キッチン台に乗っていたのは、年期の入った鍋…と砂糖…とゼラチンの袋…
そして不揃いのカップやコップ……
翔「ゼリー…?」
智「当ったり♪」
……ゼリーって
智がゼリーを作る時は
翔「誰か…体調悪いのか?」
そんな時だけだ
智「いんや。潤がね……んふふふ…」
…
……きしょぉ…
智「んふふふふ♪俺のね 作ったゼリーが食べたくなったんだって。だから…ふふ…作ってって……へへへ…」
俺がドン引きしてるのなんてお構い無く
智は顔を綻ばす
翔「……あの潤が?」
智「うん。潤が♪」
デレデレと笑う智
潤が、智に何か話し掛けるなんていつぶりだ?
ましてや頼み事なんて
そりゃこんな腑抜けた顔になっても仕方がないか
智が、此処で唯一作るのが、このゼリー
砂糖水を固めただけのモノだ
果物なんて入ってない、ただの甘いゼリー
でも…何故だか智が作るゼリーは、旨かった
プルプルと不揃いの食器の中で揺れる透明のゼリー
今さっき冷蔵庫から取り出したであろうそれ
智の丁寧で…そして綺麗な指先
智は料理をしない
出来ないんじゃなくて しないだけ
なんだ
初めから見ていたかったな
そう思う気持ちの裏で
…俺の存在は……?
睡眠不足と疲労は解消されても
ズキズキと頭痛は収まらなくて
俺は智に気付かれないよう
息を落とした
