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仔犬のパレード

第4章 歯





翔「…ゼリー?」


潤は、また目をキョロキョロとさ迷わせ
でもしっかりと頷いた


えっ…と…それは…


翔「智のゼリー。ってことか?」


潤「…うん…」


…いや……同じ材料があればゼリーは作ろうと思えば作れると思うけど


俺、は、智ではない…


翔「……」


潤「………」


翔「………ぁー…」


潤「やっぱり…駄目?」


駄目?と潤の視線は、俺から離れ後方へと向けられる
そこにはボロい冷蔵庫


………あ


翔「…食うか?」


潤「…」


翔「いいよ。食べな。」


俺は、冷蔵庫から目的の物を取り出し
潤にそれを手渡した


潤「…いいの?…これ…翔の分…」


翔「あぁ、だけど有ることすら忘れてた。
それに潤に食べて貰った方が智も喜ぶ。」


潤「……ありがと…。」


少しだけ、頬の筋肉が緩んだように見えた潤
その手に渡ったコップに入った透明のゼリー


智が作った俺の分のゼリーだ
5日くらい経ってはいるが、果物類が入っていない分、日保ちはするんだと思う


たぶん


パタパタと、ゼリーとスプーンを持って和也の部屋へと入っていく潤の背中





……


ゼリーは、あの智のゼリーは…ほんとうに忘れてた


訳じゃない
もしもの時。智がいないこの日々を過ごす為の謂わば"保険"だった


智のキスが欲しく必要になった時
このゼリーを食べれば、少しは、少しだけでも


智のキスを思い出せるんじゃないかなって
そんな風に思って、今まで食べることが出来なかったんだ






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