テキストサイズ

仔犬のパレード

第4章 歯








「翔」


そんな俺を呼び止めたのは…
まぁこの広間に居るのは一人だけだから


翔「ん?」


俺は、ソファーの前に座る雅紀へと顔を向けた


雅紀「俺が行く」


翔「?」


雅紀「潤。俺が呼んでくる」


そう言って雅紀は、ふら。と立ち上がった


翔「え…?」


て言ったって、もう、俺の数歩先には和也の部屋


なんで?と思って見るが、そんな俺を尻目に、目の前を通り過ぎて行こうとする雅紀


翔「…あ、おい…」


雅紀「……」


俺の声にその足を止めて
そして、無言のままニコニコと
キッチンを指さされた


翔「え?」


雅紀「あれ。大丈夫?」


ん?あれ……?


翔「って!わぁ!!」


そこに見えたのは、もくもくと上がる白い蒸気
と、ブシュ…と何かが溢れた音


鍋!忘れてたっ!!


翔「っ雅紀ありがと!」


野菜炒め完成で、すっかり。すっぽり。忘れてたヤツ
俺は、雅紀に礼を言って、慌ててキッチンへ入る


…げ…ぇ…


急いで火は止めたものの
吹き零れたスープで汚れたコンロ


翔「…あー…沸騰させちった…」


確か、味噌っつーのは、沸騰させると味が落ちるって…


飯ぐらい少しでも旨いもんって…


…雅紀と潤に不味いとは言われたことは無いけどさー…


言わずにいてくれてるだけかもしんねーけど


はぁぁぁ。と出てしまう溜め息





……


あー…いかん。またネガティブ
どうしても俺の思考は下向きになりやすい


気を付けねーと



そんなことを考えていたら



ガチャ…


雅紀「〜…でしょ?」


和也の部屋から出てきた雅紀……と潤


潤「…雅紀 声大きい」


雅紀「え?そう?」


潤「自覚ないの?」


雅紀「全然」


潤「……もぉ…」





潤が……笑ってる

…いや、言い過ぎた


正確には
口角を上げている。っつーのが正しい



でも、久々に見た笑顔には間違いはなくて




そうなんだ

潤はね




唯一、雅紀にだけは笑うんだ








ストーリーメニュー

TOPTOPへ